MieNaPressは
(株)日本統計センター
が運営しています。

Vol.114 金融機関はどのように選んでいますか!?

 

はじめに

今回は、金融機関の選び方について考えてみたいと思います。
皆さんは、主に取引される金融機関はどのように選んでいますか。

まずは自宅や職場に近いということが考えられます。
ATMからの出金などは日頃から行うことですし、近いと大変便利です。
他にはどうでしょうか。例えば、店舗の窓口での待ち時間、接客の良さなど、店舗の対応なども重要になることでしょう。
また、金融機関のブランドで選ぶこともあると思います。
特に、大きな取引を行う時などは、その金融機関の信用やお得な商品があるかなども取引金融機関を選ぶ際に重要な要素と思われます。

今回は、上の観点についてエリア分析的な視点から考察を行います。
分析手法は極めて専門的な内容になっておりますが、ここでは難しい説明はできる限り割愛し、簡単に理解して頂けるように心がけます。

 

分析方法について

とは言え、分析手法の考え方はお伝えしないといけません。
分析手法は「ハフ型モデル」と言われる商圏モデルを使います。
主に小売店などの売上予測に使われる手法で、ある商品の購入を考えている消費者が、その商品を販売している複数のお店の中から、どのお店を選ぶかということを推定する方法です。
まずは、自身が住んでいる場所から近いお店を選びたいと思うでしょう。しかし、そのお店より少し遠くにより良い商品が置いているお店があれば、そちらの方も考えますよね。
単純に近いだけでなく、お店の品揃えやサービスの良さといったそれぞれのお店が持つ魅力も大事です。
消費者はお店までの距離とそれぞれのお店が持つ魅力とのバランスで、お店を選んでいるというのが「ハフ型モデル」の基本的な考え方です。
これは私たちの日頃の感覚からみても分かりやすい考え方ですね。
実際、私は近くにあるそこそこの味のラーメン屋よりは、少し遠くてもおいしいラーメン屋を選びます。
でもだからといってあまり遠いとさすがにそこまでは行けません。結局、距離とラーメン屋の魅力とのバランスで判断していると思います。
実際には上のようなことを深く考えている訳ではないですが、無意識のうちに上のようなことを考えているという気がしますので、とても消費者としての肌感覚にもあう考え方であると思います。
この手法を金融機関を選ぶ要因の分析に用いてみましょう。

金融機関を選ぶ要因として、主に以下の視点で考えました。
大きく分けて2つ。

1つは距離(消費者の居住地から店舗までの距離)
2つめは店舗の魅力。

 店舗の魅力は、さらに2つに分解できて、

1.店舗個々の魅力(各店舗の接客・サービス等。以下、店舗力)、
2.金融機関としての魅力(金融機関の信用・商品力等。以下、ブランド力)

 ということで、改めて整理しますと

(1).距離
(2).店舗力
(3).ブランド力

 の3つの観点で評価します。

分析は民力都市圏(※朝日新聞社「民力」(2015年)で定義された地域設定)単位で行います。
民力都市圏内の人口が20万人以上の150都市圏について分析を行います。

分析の結果、上記の3つの観点について、金融機関を選ぶ時の要因の強さが数値(パラメータ)として得られます。
その3つのパラメータの大きさを比較することにより、それぞれの地域で、3つのうちどの要素が重視されているかが分かります。

モデルの詳細を説明し始めますと、学術論文みたいになってしまいますので、本文ではその説明は割愛します。
一応、以下に小さい字でモデルの詳細を記入しておきますので、気になる方はご覧下さい。
本文では次章以降、モデルの詳細を知らなくても本文の内容が理解できるよう努めていきます。

※モデルの詳細は以下の通り。

1.分析対象金融機関は以下の通り。

(1).都市銀行
(2).地方銀行
(3).第二地方銀行
(4).信用金庫
(5).信用組合
(6).労働金庫
(7).JA
(8).ゆうちょ
※無人店舗、ローンセンター、インターネット支店などの特殊店舗は除く。

2.実際にモデルに使用した変数は以下の通り。

(1).直線距離
当該都市圏内の全町丁から全ての店舗までの直線距離。
一般的に、ハフ型モデルの構造として、距離のパラメータはマイナスで推定される。
(2).店舗の行員数=店舗力の指標1
出典:ニッキン・2015年。
行員数が非公開の店舗については当該金融機関の当該都市圏内他店の平均値を使用。
全ての店舗で行員数が非公開の金融機関については、直近公開時点の行員数をそのまま引用。
ゆうちょ、JA、労働金庫、信用組合については、それぞれ全店舗一律の仮定値を使用。
(3).営業経過年数(=店歴)=店舗力の指標2
下記の方法で算出。
営業経過年数=2016年-開設年(出典:ニッキン)。
(4).金融機関預金残高=ブランド力の指標1
当該金融機関の総預金残高。
当該金融機関の全店舗に同値を入力。
(5).金融機関店舗数=ブランド力の指標2
当該金融機関の当該都市圏内の店舗数。
当該金融機関の全店舗に同値を入力。
※(2)~(5)のパラメータについては、基本的にプラスの数値として推定される。
ただし、地域によってはこれらのパラメータがマイナスになる場合もある。
この場合は、その変数がマイナス要因として影響することを意味する。

3.分析仕様

(1).分析対象地域=民力都市圏(出典:「民力」朝日新聞社、2015年)
※川崎都市圏、横浜都市圏、大阪都市圏は民力都市圏内人口は20万人以上だが、都市圏規模が大きくモデル推計処理の負荷が大きいので、今回は対象外とした。
※競合対象は当該都市圏の辺縁部からさらに10km程度まで圏域を広げて立地する店舗を設定。
(2).分析地域単位=町丁
(3).分析データ
1.金財口振統計データ(出典:一般社団法人金融財政事情研究会、2015年)
2.店舗データ(名称、位置情報等)(出典:「日本金融名鑑」、ニッキン、2015年)
3.行員数データ(出典:「日本金融名鑑」、ニッキン、2015年)
4.開設年月日情報(出典:「日本金融名鑑」、ニッキン、2015年)
5.総預金残高データ(出典:「日本金融名鑑」、ニッキン、2015年)

 

結果の考察

上記のモデルから得られた結果から特徴的な地域を見ていきましょう。

1.静岡県の事例

 静岡県のケースです。
静岡県で人口20万人以上の都市圏は4都市圏です。

表1-1

表1-2

表-3

 

 まず、表1-1の左欄で、4都市圏の3つのパラメータをみると、距離が最も大きいです。
これは全国的な傾向で、距離が最も大きい都市圏が大半なので、基本的な傾向です。
その上で、残りの店舗力とブランド力のパラメータを、距離を1としたときの比(表1-1の右欄)で見てみましょう。
沼津都市圏と富士都市圏は店舗力のパラメータが大きく、静岡都市圏と浜松都市圏はブランド力のパラメータが大きくなっています。
この4都市圏はいずれも静岡銀行がトップシェアであり(表1-3)、静銀ブランドが強力な地域ではありますが、静岡都市圏、浜松都市圏において静岡銀行のシェアは特に高く、地域No.1の静銀ブランドの影響力が確立していると思われます。
一方、沼津都市圏と富士都市圏では静岡銀行は高シェアではあるものの、静銀ブランドの影響よりも店舗個々の力が相対的に勝っているという状況がうかがえます。

 

2.兵庫県の事例

 次に兵庫県を見てみましょう。
兵庫県で人口20万人以上の都市圏は9都市圏です。

表2-1

表2-2

表2-3

 

 距離の数値を1としたときの比で見ますと(表2-1の右欄)、川西都市圏、西宮都市圏、明石都市圏、加古川都市圏はブランド力よりも店舗力が大きく、1を超えていますので距離よりも重要視されています。
これらの都市圏では、少し遠くなっても窓口の対応やサービスが重視される地域のようです。
また、尼崎都市圏は店舗力・距離のいずれよりもブランド力が大きくなっています。尼崎信用金庫の主要営業エリアで、尼信ブランドが強力な地域です(表2-3、尼崎都市圏は尼信シェアが1位)。
その他の伊丹都市圏、宝塚都市圏、神戸都市圏、姫路都市圏はいずれも距離の数値が最も大きいことから、基本的に近い店舗を選ぶ傾向にあります。
距離の次に、店舗力とブランド力でどちらが重視されるかとの比較では、上記4都市圏のうち、姫路都市圏を除く3都市圏は、両者の数値に大きな違いはなく、どちらも同じ程度の影響度といえそうです。
姫路都市圏は店舗力が大きくなっています。姫路都市圏のトップシェアは農・漁協ですが(表2-3)、姫路都市圏は信金王国とも言われていて(表2-2、業態別シェアでは信用金庫シェアが最高値)、姫路信用金庫、播州信用金庫、兵庫信用金庫の3信金が三つ巴の力関係で拮抗しており、この地域では他を圧倒するような強力なブランドが確立されているとはいえない状況です。
そのような地域では、ブランドの力は弱くなり、店舗個々の対応力が店舗を選ぶ際のポイントになっていると思われます。

 

3.中国・四国地方の事例

 次は中国・四国地方を見てみましょう。
中国・四国地方で人口20万人以上の都市圏は13都市圏です。

表3-1

表3-2

表3-3

 

 距離の数値を1としたときの比で見ますと(表3-1の右欄)、山口県の下関都市圏、愛媛県の松山都市圏は、店舗力よりもブランド力が大きく、1を超えていますので距離よりも重要視されています。
この2都市圏は、それぞれ山口銀行、伊予銀行の強力なブランド力が確立されており(表3-3)、少し遠くなっても両銀行の店舗まで足を伸ばして行く傾向が見られます。
また、距離の数値には及ばないものの、ブランド力が店舗力を上回る都市圏は、岡山県の岡山都市圏、倉敷都市圏、広島県の広島都市圏です。
この3都市圏もそれぞれ、中国銀行、広島銀行の地盤が強力です(表3-3)。
その他の地域は、店舗力とブランド力の差が小さく、両方の要素とも重視されていると思われます。
山陰地方の鳥取県、島根県では山陰合同銀行のシェアが高く、特に島根県の松江都市圏では同銀行のシェアは50%を越える非常に強力な地盤が確立されていますが(表3-3)、ブランド力の数値がそれほど大きくなっていない点は中国地方の他の都市圏と比べて異なる傾向を示しています。
同じく、高知県の高知都市圏も四国銀行の地盤が強い(四国銀行のシェア40%以上)地域ですが(表3-3)、ブランド力より店舗力の数値が大きく、ブランド力の影響がそれほど大きくなっていない傾向が見られます。

 

分析まとめ

総括の意味で、全国150都市圏の分析結果から共通する傾向を見てみますと、

地元金融機関で地域No.1の強力な金融機関がある地域はブランド力が強い傾向にある

ということが言えそうです。

これは、強力なブランド力のある金融機関であれば、それ以外の金融機関の店舗が近くにあっても、少し足を伸ばしてでもブランド金融機関の店舗を選びたい、ということ、
逆に、複数の金融機関が同程度のシェアで競り合っているような地域の場合、ブランド力において大差がないため、店舗個々の魅力や近さで選びたくなる、
ということだと思われます。

全国的に人口減少が進む中、地方を中心に、金融機関も経営統合などにより、今までより大きな資本で広範囲な地域をカバーする金融機関が今後は増えていきそうです。
市場が縮小するのですから、経営効率化により生き残りを図ることは必要なことと思いますが、それにより地域の産業を育て地域経済を支えていく金融機関が地域密着の活動を行いにくくなっていくのは懸念材料でもあると思いました。

 

モデルの活用イメージ

今回はモデルのパラメータをみて地域性を考察していますが、冒頭で少し述べたように、このようなモデルを構築する本来の目的は地域性の考察ではありません。
通常は来店客数や預金残高の予測などのシミュレーションを行うことが第一の目的になります。
そこで、ここでは上記で構築したモデルの簡略版モデルを使って、金融機関のサンプル店舗における商圏(≒その店舗の取引ユーザーの主な来店範囲)のシミュレーションイメージを少しご紹介しましょう。

1.商圏の変化

 簡略版のモデルでは、単純に距離と行員数(上記モデルでは「店舗力」を示す指標の一つ)の2つの変数を用いてパラメータを設定してみました。

 まず、距離のパラメータが変化した際に、店舗の商圏がどのように変化するか見てみましょう。

 距離と行員数のパラメータの値が、”距離:行員数=2:1”と”距離:行員数=3:1”の2つのモデルを用意しました。他の条件は全く同じです。
後者のモデルは、前者のモデルよりも距離パラメータのウェイト(行員数パラメータに対する比)を高めたものです。

 この時のサンプル店舗の商圏を描いてみました。

マップ1-1

 

 マップ1-1は、青色の店舗と赤色の店舗が3店舗あり、そのうち青色の店舗の商圏を表示しています。
この図はコンタマップと言われるもので、各店舗のシェアの状況を等高線のような形で表現したものです。
ここでのシェアとは、当該地域に居住する金融機関ユーザーが、利用可能な全ての店舗のうち、当該店舗で取引するユーザーの割合を言います。
例えば、○○町○丁目で金融機関と取引が有るユーザーが100人いたとして、そのうち、上記の青色の店舗で取引するユーザーが10人いたとした場合、青色の店舗のシェアは10%ということになります。
その10%のシェアが及ぶ地域の範囲を商圏として色付けで表示しています。
上図では、シェアの高さに応じて、1次商圏から3次商圏を色分けで示しました。
商圏の設定はケースバイケースですが、ここでは1次商圏がシェア30%以上、2次商圏が20%以上、3次商圏が10%以上としました。

 改めて、マップ1-1をみますと、この店舗の例では、距離:行員数が2:1のモデルより3:1のモデルの方が商圏が広くなりました。
距離の影響が強まったため、より近い店舗を重視するようになった結果、この店舗の商圏は広がりました。
これは一つの例で、逆になるケースもあります。もともと店舗力(ここでは行員数)が大きい店舗の場合は、距離の影響が強まった結果、商圏が小さくなる可能性もあります。

 次に、モデルは2:1に固定して、サンプル店舗だけ行員数(店舗力)が増えた場合に商圏がどのように変化するか見てみましょう。

マップ1-2

 

 この例では、行員数が増えたことにより商圏が大きくなりました。店舗力が強くなったため、その影響が商圏に反映されています。
このように商圏の変化を予測することが出来れば、例えば、ある店舗の行員数を増強することで、その店舗の取引高(例:預金残高)がどれくらい増加するかなどのシミュレーションも行えるようになります。

 

2.統廃合シミュレーション

 上の例では1店舗の変化の状況をみましたが、このシミュレーションの機能は複数店舗の変化にも利用できますので、店舗配置が変化した時の影響を予測することができます。
ここでは、店舗統廃合のケースをイメージしたシミュレーションを行ってみます。

 下図では、青色の店舗と赤色の店舗が3店舗あります。
この4店舗は同じ金融機関の店舗であるとし、青色の店舗を廃止して残りの3店舗でカバーしようとした場合に、商圏がどのように変化するかを予測したものです。
※オレンジ色は同じ金融機関の近隣店舗、小さい×印は他の金融機関の店舗。

 青色の店舗の行員は全員、赤色の3店舗に異動することを前提にしています。よって、統廃合後の赤色3店舗の行員数合計は4店舗の時のものと変わりません。

マップ2

 

 マップ2を見ると、統廃合の結果、青色の店舗の商圏が無くなり、他の3店舗の商圏が広がりました。
この例では、統廃合したことで、赤色3店舗の影響範囲が全体的に広くなったように見えます。
しかし、青色の店舗の商圏は必ずしも十分にカバー出来ていない状況も伺えます。

 このように、今回のようなモデルを構築することにより、店舗配置を変化させた場合のさまざまなシミュレーションが可能となります。
今後、金融機関の経営統合に伴い、店舗統廃合なども増えてくると思いますが、上記のシミュレーションを行うなどにより、その影響を慎重に見極め、地域住民の方々が出来るだけ困ることのないように検討されることを願います。

 当社では、これからも地域の様々な考察にあたって、有効な分析手法の研究に取り組み、地域に対してよりよい提言が行えるよう努力していきたいと思います。

 

このレポートの全部または一部を無断でコピーすることは、著作権法上での例外を除き禁じられています。


【お願い】

レポートを最後までお読みいただき、ありがとうございました。

弊社では、当サービスをさらに充実していくために、読者の皆様にレポートの評価をお願いしています。

あなたの評価に合うボタンをクリックしてください。

よろしくお願いいたします。


この記事はどうでしたか?役に立ちましたか?面白かったですか?
  • 1点 (3)
  • 2点 (5)
  • 3点 (5)
  • 4点 (6)
  • 5点 (2)

Comments are closed.