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Vol.110 働きやすさって何でしょう

 

「働き方改革」について

 今さかんに言われている「働き方改革」。

 「働き方改革」は2年前(2016年)に安部総理の第2次改造内閣が発足した際、初代の「働き方改革担当大臣」を任命し、「働き方改革実現推進室」を設置したことに始まります。
 以降、関係閣僚と有識者を含む「働き方改革実現会議」を随時開催し、2017年に「働き方改革実行計画」が決定されました。
 
 『働き方改革は、一億総活躍社会の実現に向けた最大のチャレンジ。多様な働き方を可能とするとともに、中間層の厚みを増しつつ、格差の固定化を回避し、成長と分配の好循環を実現するため、働く人の立場・視点で取り組んでいきます』

※首相官邸「働き方改革の実現」より転載
http://www.kantei.go.jp/jp/headline/ichiokusoukatsuyaku/hatarakikata.html

 一億総活躍社会とは、少子高齢化が進む中でも「50年後も人口1億人を維持し、職場・家庭・地域で誰しもが活躍できる社会」とされていますが、一億総活躍社会を提唱する背景には生産年齢人口の急速な減少への懸念があります。
 将来の労働力不足を解消するために、働き手を増やし、出生率を上昇させ、労働生産性を上げる、といった課題に取り組むのが「働き方改革」です。
 「働き方改革関連法案」については賛否両論ありますが、6月29日に参院本会議で可決・成立しました。

 「働き方改革関連法案」では、労働に係る8つの法律、働き方改革を推進するための「雇用対策法」の改正、長時間労働の是正と多様な働き方を実現するための「労働基準法」の改正、雇用形態にかかわらない公正な待遇の確保に向けた「パートタイム労働法」「労働契約法」「労働者派遣法」などが改正されます。
 高収入の一部専門職を労働時間の規制から外すことから、長時間労働を助長し、過労死につながるとの批判が多い「高度プロフェッショナル制度(高プロ)」は来年4月に導入されます。「残業時間の上限規制(年720時間まで、単月で100時間未満)他」は、大企業においては来年4月、中小企業については2020年4月に、「同一労働同一賃金(基本給や手当で正社員と非正規の不合理な格差をなくす)」は、大企業においては2020年4月、中小企業については2021年4月に導入されます。
 国は「働き方改革」を推進するために、法改正を含む様々な手立てを講じ、「働きやすい職場環境づくり」の整備を進めています。

 

「働きやすさ」と「働きがい」

 前回のレポート(Vol.109 憂鬱じゃなければ仕事じゃない?)でも登場した心理学者F.ハーズバーグによる「二要因理論」では、労働環境や労働条件の改善によって、従業員の不満(「不満足」の発生や軽減に関わる要素)は減少し、「衛生要因(「働きやすさ」)」は向上するが、いったん改善した労働環境や条件は「当然の事象(既得権)」に変化し、新たな不満要因が発生するとしています。
 つまり、エンドレスに続く状況だということです。

 一方、仕事への貢献意識や責任意識、自分の努力や成果を周りに承認された喜び(達成感)や、自分に対する信頼感や有能感といった自己効力感(self-efficacy)などは「動機付け要因(働きがい)」とされています。
 働きがいを感じるかどうか、ということに関しては自己理解を含めて個々のメンタルな面での要素が大きく、働きやすい環境整備よりもハードルが高いといえます。
 企業が働きやすい環境を整備し、従業員が働きがいを感じる状況にあることが、そこで働く人のモチベーションを高めることに繋がっていくと思われますが、そこには課題の認識・検討・行動・改善、次の課題の認識…、と切れ目なく続く取組みが必要です。
 とてもエネルギーが要りますね。

 ということで、今回は、ハードルが低い方の「働きやすさ(働きやすい職場環境)」とは何か、について考えてみたいと思います。
 今回分析に使ったデータは、前回レポート同様、当社が実施した「ライフスタイルに関する調査」(2015年9月実施)によるものです。

 回答データは全国20歳以上の約3万人分ですが、今回は20歳以上60歳未満の有職者(パート・アルバイトを除く)データを利用します。

 「ライフスタイルに関する調査」では、性別、年齢、職業、住まいの状況といった基本属性のほかに、職場環境に関する設問(就業者のみ)、普段の買物行動、問題に対する自己認識などを尋ねていますが、今回は仕事に関する回答データを用いて分析します。

<基本属性>
 性別、年齢(単数回答選択方式)、就業年数、勤務先の従業員規模、1か月の平均労働時間(時間外労働時間含む)、平均残業時間(いずれも定量(数値)データ)

<就業環境>
 勤務先の働きやすい職場づくりへの取組み、勤務先の従業員への支援制度(複数回答選択方式)、勤務先の女性就業支援制度(積極的~消極的)の5段階評価
 (注)従業員が自分の勤務先が行っている、と認識している内容です。

<就業環境に対する評価(自己基準)>
 職場環境の評価(そう思う~そう思わない)、職場環境の満足度(満足~不満)の5段階評価

 

「働きやすさ」は何によって規定されるか

 前出のデータですが、回答の仕方が同じ方式ではないことと、分析用の変数にするためには数値化する必要があるため、回答選択方式(性別、働きやすい職場づくり、従業員への支援制度)はダミー変数(1,0)に、5段階評価方式(女性就業支援制度)はカテゴリウェイト(1~5の値)を与えて数値化しました。
 下表は分析に使った変数リスト(45変数)です。

 

変数リスト

変数リスト

出所:株式会社日本統計センター「ライフスタイルに関する調査」(2015年9月)

 

 就業環境に対する自分の評価は、「職場環境の評価」と「職場環境の満足度」という2つの設問で尋ねています。
 「職場環境の評価」は、仕事における決定権の有無やキャリアの道筋についてどう思うかという設問で、「職場環境満足度」は、自分が置かれている状況(例えば仕事内容や賃金、福利厚生など)について満足しているかどうかという設問です。この2つの設問は「女性就業支援制度」同様、カテゴリウェイト(1~5の値)を与えて数値化しました。
 実際の分析においては、「職場環境の評価」と「職場環境の満足度」という2つの評価の間の相関関係が強かったため、就業環境の評価としては「職場環境の満足度」を用いることにしました。
 「職場環境の満足度」については、以下の表にあるように17項目の評価があるため、それぞれのスコアを合計して平均化し、「職場環境満足度平均スコア(以下、満足度スコア)」として1つの変数にしました。

 下表は満足度スコアに使用した項目です。

満足度スコアの評価内容

満足度スコアの評価内容

出所:株式会社日本統計センター「ライフスタイルに関する調査」(2015年9月)

 

 この「満足度スコア」を従属変数に、属性や事業所の取組、支援体制といった44個の変数を独立変数として、ステップワイズ重回帰分析を行いました(有効サンプルは12,724N)。
 ※ステップワイズは、独立変数を加除しながら、最も説明力が高いモデル式にたどり着くまで繰り返し計算を行う回帰分析の手法です。

 変数間の相関が高いものを適宜除外しながら試行を繰り返した結果、最終モデルの決定係数(R2乗)は0.206(このモデルで説明できる割合は20.6%)、F検定の分散分析の有意確率は0.000で、1%水準で有意となりました。

 「有意」であるということは、比較する対象の間に「差がない」という帰無仮説が成立するかどうかを検証した結果、成立しなかった(棄却された)ため「差がない」とは言えない(つまり「差がある」)という結果になったということで(逆説的でわかりづらい話ですが)、100回試しても99回同じ結果(差があるという結果)になるということになります。
 変数が多いためか説明力そのものは高くありませんが、最終的に得られたモデル式の精度は悪くないと思われます。
 説明力が高いかどうかをみる標準化係数βのうち、有意確率(P)5%以下で説明できると判定されたのは次の24変数です。

 

満足度スコアの回帰結果

満足度スコアの回帰結果

 

 また男女による職業満足度の違いもあるかもしれないため、データそのものを男性(有効サンプル9,491N)、女性(有効サンプル3,113N)に二分して、同様の分析を行った結果、男性の満足度スコアに対する回帰では22変数、女性の満足度スコアに対する回帰では11変数が検出されました。
 設問ごとに標準化係数βが高い(説明力が高い)順に並べ替えたのが以下の表です。

 

満足度スコアに影響している変数

満足度スコアに影響している変数

 

 標準化係数βをみると、属性では「就業年数」「性別」が検出されていますが、「就業年数」はプラスとなっており、就業年数が長いほど職場環境への満足度が高いといえます。
 「性別」はマイナス(-)となっており、女性の方が職場環境への満足度が高いといえます。

 女性の就業支援では、「セクハラやいじめの防止、対策」「女性に対する差別をなくす」「女性の「メンター」や「ロールモデル」配置」「女性採用比率の向上のための措置」「女性の活躍推進のための訓練や教育」の5項目が検出されています。
 働きやすい職場づくりへの取組みでは、「職場の人間関係やコミュニケーションの円滑化」「能力開発機会の充実」「希望を踏まえた配属、配置転換」「優秀な人材の抜擢・登用」「定期的な特別休暇の導入」といった11項目が検出されています。
 従業員への支援制度では、「始業・終業時刻の繰上げ・繰下げ」「所定外労働時間(残業)を免除する制度」「子育てサービス費用の援助措置など(ベビーシッター費用など)」「育児のため短時間勤務制度」といった7項目が検出されています。

 女性の就業支援のうち、男女ともに検出されたのは、「セクハラやいじめの防止、対策」「女性に対する差別をなくす」「女性の「メンター」や「ロールモデル」配置」で、「女性に対する差別をなくす」「女性の「メンター」や「ロールモデル」配置」は男性より女性の評価が強く影響しています。

 働きやすい職場づくりへの取組みで、男女ともに検出されたのは、「職場の人間関係やコミュニケーションの円滑化」「希望を踏まえた配属、配置転換」「定期的な特別休暇の導入」です。

 従業員への支援制度で、男女ともに検出されたのは「始業・終業時刻の繰上げ・繰下げ」「子育てサービス費用の援助措置など(ベビーシッター費用など)」で、「始業・終業時刻の繰上げ・繰下げ」は男性、「子育てサービス費用の援助措置など(ベビーシッター費用など)」は女性の評価が強く影響しています。

 変数の多くは男性のみに検出されたものですが、女性就業支援のうち、男性は「女性採用比率向上のための措置」が、女性は「女性の活躍推進のための訓練や教育」が、プラス要因として検出されています。
 また、働きやすい職場づくりのうち、男性は「産業医等による助言・指導または保健指導」「時短制度、ノー残業デーの設置といった残業時間規制」が、女性は「心とからだの健康相談窓口の設置(メンタルヘルス対策)」が、マイナス要因として検出されるなど、男女による評価の違いがうかがわれる結果となっています。

 (性別にかかわりなく)従業員が会社に求める職場環境とは何か、という見方で整理すると、

・ハラスメントや偏見がない職場であること
・従業員同士のコミュニケーションが取りやすいこと
・女性の採用や育成に前向きであること
・勤務時間の繰上げ・繰下げなど、子育て支援を含めたところでのフレキシブルな働き方ができること

 といった要因が浮かび上がってきます。

 公平・公正な職場であるということ、従業員それぞれの事情に合わせた働き方ができる職場が求められているようです。「働き方改革」に盛り込まれている内容とリンクする部分も少なからずあるように思います。
 法整備が進むことによって、働く人のモチベーションも上がっていけばいいですね。

 次に、満足度スコアの高低によって3つにグループ分けして、性別や年齢などの属性による顕著な違いがあるかどうかを検証してみました。

 満足度スコアの区分は、「高い」が4.0以上5.0以下(全体の9.4%)、「平均的」が3.0以上3.99未満(全体の53.3%)、「低い」が2.99以下(全体の37.4%)です。

 それぞれの属性の比率と全体の比率との間で有意な差があるかどうかを、母比率の検定という方法で検定した結果、性別では有意な差はみられませんでした。
 年代では25~29歳に満足度が「高い」人の割合が高く、45~49歳で「低い」人の割合が高くなっています。
 従業員規模別では、500人以上の大企業で満足度が「高い」人の割合が高く、「30~99人」の中堅企業では「低い」の割合が高くなっています。
 

性別、年代別、従業員規模別に見た満足度グループ別の割合(%)

性別、年代別、従業員規模別に見た満足度グループ別の割合(%)

 

 働いている人の職種でみると、会社経営・役員で満足度が「高い」人の割合が高くなっています。
 正社員、正規職員、派遣社員は「低い」人の割合が高く、特に派遣社員の満足度は低くなっています。
 勤務先の業種別では、公務、教育、学習支援で満足度が「高い」人の割合が高く、製造業、運輸業、郵便業で「低い」人の割合が高くなっています。

 

職種別、勤務先業種別にみた満足度グループ別の割合(%)

職種別、勤務先業種別にみた満足度グループ別の割合(%)

 

「女性活躍推進法」について

 「働きやすさ」では、女性の就業支援や子育て支援を含めたところでのフレキシブルな働き方が従業員の満足度を高める方向に働いており、性別や子どもの有無など、働く人の属性に関係なく公平・公正な職場が求められていることがわかりました。
 女性が働きやすい職場環境づくりに関しては、国が「女性の職業生活における活躍の推進に関する法律(以下、女性活躍推進法)」という法律を作ってこれを後押ししています。

 「女性活躍推進法」は平成27年8月に国会で成立した法律で、働く場面で活躍したいという希望を持つすべての女性が、自分の個性と能力を十分に発揮できる社会を実現するための数値目標を盛り込んだ行動計画の策定と公表、女性の職業選択に資する情報の公表が事業主(国や地方公共団体、民間企業等※)に義務付けられています。
 ※常時雇用する労働者が300人以下の民間企業等にあっては努力義務

 国や地方公共団体でも女性職員の採用割合や超過勤務の状況といった指標の数値を公開しています。

(女性活躍推進法サイト→ href=”http://www.gender.go.jp/policy/suishin_law/csv_dl/index.html )

 一般事業主(民間企業)の取組みについては、「女性活躍推進法」に基づく情報公表や行動計画を「女性の活躍推進企業データベース」で公開しています。
 このデータベースは掲載企業が随時更新・変更などが可能となっており、リアルタイムな事業所の取組みを見ることができます。
 このサイトで公開しているデータは次のような内容となっています。

(女性の活躍推進企業データベース→ http://positive-ryouritsu.mhlw.go.jp/positivedb/ )

「女性の活躍推進企業データベース」の情報公開項目

「女性の活躍推進企業データベース」の情報公開項目

(注1)「(区)」の表示ある項目については、雇用管理分(※) ごとに公表。

※「雇用管理区分」・・・職種、資格、雇用形態、就業形態等の労働者の区分であって、当該区分に属している労働者について他の区分に属している労働者とは異なる雇用管理を行うことを予定して設定しているものをいう。)
ただし、属する労働者数が全労働者の1割に満たない雇用管理区分がある場合は、職務内容等に照らし類似の雇用管理区分をまとめて公表(雇用形態が異なる場合を除く)。

(注2)「(派)」の表示のある項目については、労働者派遣の役務の提供を受ける場合には、派遣労働者を含めて公表。

 

 「女性の活躍推進企業データベース」では、女性が働きやすい環境づくりに向けて、事業主が何をどれくらい行っているのかを数値(%)で見ることができます。

 “女性の活躍推進企業”とありますが、データベースで公開している項目をみると、働く人の属性にかかわりなく、働きやすい職場環境づくりへの事業所の取組みを知ることができると思います。
 2018年6月19日時点でデータを公表している事業所は9,237所あり、業種や企業規模、所在地(都道府県)などでの検索も可能となっています。
 自分が勤める事業所と同じ業種、同じような規模の事業所がどんなことをやっているのか?といった視点でデータを見るのも面白いかもしれません。

 

すべてはこれから

 私が社会人になった当時、「雇用の分野における男女の均等な機会及び待遇の確保等に関する法律(男女雇用機会均等法、略して「均等法」)」は施行されていましたが、まだまだ世の中には浸透していませんでした。特に男女格差やセクハラは、今と比較にならないくらい “当たり前のこと” として存在していました。
 今はセクハラを含め、あらゆるハラスメントについて人々の目が厳しくなっています。
 それが “当たり前のこと” ではないという考え方をする人が増えてきているのだとすれば、これからもっと世の中は変わっていくかもしれません。
 働くかどうかを決めるのは個人の自由だと思いますが、働くことを選んだ場合は、働く場所やそこで過ごす時間が少しでも快適なものになっていってほしいですね。

 

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